母のこと                 椎野道子

六月ももうすぐ終わりというある日、私は病気で寝ている母の家に向かって車を走らせていました。
 会うたびに、段々と体力がなくなっているのがわかっているので、母の部屋に入るときは、明るい顔を見せるようにしていました。
 食欲が少ししかなく、すっかりやせてしまい、体が辛いという母、そんな状態を見ていても、私にはどうすることもできません。
 母の体を楽にしてあげたい!
 何とかしてあげたい!
 そう思った時、不思議ですね、正直なところ、今までほとんど信仰心のない私でしたが、蓮台寺に行きたくなったんです。
幸いなことに、ご住職様が庭にいらっしゃいましたので、母のことを聞いていただきました。
 「わかりました。熊野権現様にお願いしてみましょう。」そのお言葉をいただき、思い切ってお話しして、本当によかったと思いました。
 そして数日後、本堂で杉谷家のご先祖様のご回向のお経をあげていただいた後、熊野権現様の御前でご祈祷のお経をあげていただき、母の苦痛が和らぐように祈願したお札をいただくことができたのです。
 すぐに母のところへ持ち帰って「気分が良くなりますように。」と何度も何度も念じながら、お札を母の額に触らせて、ベッドの上に置きました。
 そうしたら、夕飯を沢山食べて、「気分が良いわ」って言ったんです。
 次の日も次の日も同様でした。
 私、とてもうれしくて………。

ご住職様
 七月三十一日、母は父のところへ逝ってしまいましたが、お祈りをしていただいたこと、私自身の心の苦しみを聞いて下さったこと、忘れることができません。本当にありがとうございました。
               (蓮祐8号(平成11年冬)より)